救世日記

リビング彗星

2025.8.30

光の速度で生活を続ければ、人は彗星のように綺麗に燃え尽きることができるのだと思う。

そう思った由家さん家族は住居を彗星の上に移し、今は宇宙と空の間で生活をしている。

このまえパラシュートでハガキが届き、そこには成層圏の上での暮らしは大変だけど、元気にやってます、というようなことが書かれていた。

いちばん初め、彼が彗星の上に住むと言い出した時、周りの人は皆冗談を言っているのだと思った。しかし、あまりに真剣に何度も繰り返すのだから気が狂ってしまったと思うようになり、最終的に彼がNASAのハイジャックに成功したとニュースで知った時には、ついに彼は行くのだな、と妙に納得してしまっていた。

ただ一つ、意外だったのは家族三人で彗星に移住したことであった。一度、気球に乗せて手紙を届けた時、そのことについて尋ねてみたのだが、彼の答えは「家族一緒じゃないと俺の生活じゃないから」であった。

とにもかくにも、私が地上で普通に生活しているように、由家さん家も彗星の上で普通に生活している。昨日も会議にリモートで参加した時に、宇宙線の影響で電波がわるいとしきりに遅刻の言い訳をしていた。

彼の彗星での生活は私から見る限りは幸せそうにみえる。しかし彗星が成層圏に到達した時が、彼の幸せの明確な終わりだろう。そのことこそが彼の望んだものなのだろうかと、日々の暮らしを忙しなくも楽しそうにこなす彼の姿を見て、私はそう思わずにはいられなかった。

確かめるように空を見上げると、ひっかきキズのように空に浮かぶ彗星の軌跡が今日もそこにいた。彼の生活と私の生活を重ね合わせながら、私は小さく祈りを捧げた。