救世日記

人間卒業

2023.9.29

早く人間を卒業すれば、この負い目は無くなる気がします。

人間であるという生き方がそろそろ辛くなってきた今日この頃、限界が近づいてまいりました。

何か手を打たないと、今までの罪悪とこれからの不安で、すりつぶされてしまいそうです。そんなある日、私は夜の路地裏の闇に、妖怪の姿を見たのです。

これだ!

妖怪になってしまえば、人間を辞めることができるじゃあありませんか!

私はもう一度妖怪さんと目を合わす。ギョロリとした丸い目をこちらに向けて、闇に溶け込むように彼は消えてしまう。その消失は、私には新たなる世界への招待のように感じられます。

今とは全く違う姿に変わって、雑踏の影の路地に潜む妖怪になる空想は、とても魅力的に映る。妖怪になりたい・・・。妖怪になりたい!!

しかし、妖怪になるためにはまず、人間を辞める必要があり、その辞め方には一考の余地があるように思います。

ただ人間性を捨て去り、人間の姿から目を背けるような辞め方はいかがなものなのだろう。私は、今まで生きてきた人間としての苦しみも後悔も全てまとめて救い出してあげたい。そのためには堂々と人間を卒業する必要があるのです。晴々とした気分で、桜の花びら舞う空の下、私は卒業する必要があるのです。

壇上から名前を呼ばれ、パイプ椅子から立ち上がる。拍手を受けて、ちょっぴり恥ずかしがりながら、壇上まで歩いていく。

「卒業おめでとう」

”あなたが人間を卒業したことをここに証します” そう書かれた卒業証書を渡したのは、あの街角の妖怪だった。