救世日記

マネキン星雲

2024.1.22

マネキンが私の部屋に気づいたら置いてあった。

いつから、誰が置いたのか全く覚えがないが、とにかくマネキンは存在していた。マネキンは白く、滑らかで、輪郭がしっかりとしている。私が知っているマネキンそのものだった。ただ一つ違っていたのは服を着ていない、ということだけだった。まぁそもそも、身に覚えのないマネキンが私の服を着ていても怖いだけなのだが。

しかし裸のマネキンというのはなんとも薄ら寒いものである。みていて痛々しい。なんだか哀れに感じたので服を着せてやろうとしたのだがなかなか難しい。どうやら一度部位ごとに解体して服を着せて、また組み直してやる必要があるらしい。面倒臭いなと思いながらまず上半身と下半身を二つに分解する。すると上半身と下半身の断面に小さな窪みがあるのに気がついた。

窪みを覗き込むと何やら白い球体が嵌め込まれていた。なんだろう。ほとんど無意識で取り出してみるとそいつは虹色に輝き出した。物を照らすほど強い光というわけではないが反射光のように淡くない。確かにこの球体から発している光だ。気味が悪くなってしまったので、私は球体を窪みに戻し服を着せる計画は中止にして組み直さずにそのまま粗大ゴミとして捨てた。

マネキンを捨ててから数日後、見慣れない番号からの着信。「はい、もしもし」「あ、お忙しいところすいません。つかぬことをお聞きしますが、あなた、マネキンを捨てましたか?」「はぁ、確かに捨てましたが」「あーやっぱりそうでしたか。いや何、あれ、実はマネキンの形をした探査機だったんですよ」「・・・」「元々は服屋に送る手筈だったんですが、手違いであなたのところに送られてしまったようで」「あなたは何者なんです?」「何者?そうですね、まぁあなた方が言うところの宇宙人といったところですね、ハハ」「・・・もしそれが仮に本当だったとして、なぜこの電話を?」「ただの確認です。もうすでに証拠はないですし、隠す必要もないので」「そうですか」「はい」「用件は以上ですか」「ああはい、ありがとうございました。では失礼します」

電話は切られ、ツーツーと音が耳に入ってくる。突拍子もない話でなんだか本当に電話がかかってきたのか疑問に感じてきた。もう一度かかってきた番号に電話をかけてみるがつながらない。証拠は残さないということだろう。探査機。そんなことを言っていた。もし本当だったのなら捨ててしまうのはもったいなかったかもしれない。この空の向こう側にはさっきの電話相手がいるのだろうか。地球に飛来してくる虹色に光り輝く無数のマネキンたちを想像してみたが、空には影一つ見えなかった。